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恋愛体験団

恋愛を元にいろいろなお話をしましょう! 失恋や一目ぼれや現在交際中の彼氏や彼女 愛人などなど いろいろな恋愛のことを語りましょう! そしていろんなところから恋愛ネタを貼っていきます。
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2009/04/14 (Tue) 13:59

恋愛事件4

夜10時。
 バイトを終えて建物の裏口から出た時だった。
「よぅ、子猫ちゃん」
 と、なぜかやさぐれ風に、挨拶されてしまった。驚いて顔をあげると、歩道のガードレールに寄りかかっている水屋先輩と視線がぶつかった。街灯の下にある水屋先輩の姿はまるでドラマのワンシーンみたいに思えた。
「こんな時間までお疲れさま。悪い人に襲われてはいけないので、家まで送るよ」
 ええと先輩も、女性なんじゃ。
 私は一瞬立ち止まったあと、躊躇いつつも先輩の方へ近づいた。先輩が身を起こし、私の隣に立って、歩くよう促した。
「星が奇麗だね西田さん。やっぱりこれは私達を祝福しているという証かな」
「……」
「あー向こうにホテルの明かりが! 行っとく?」
「……」
「お仕事お疲れさま、子猫ちゃん。食事にする、お風呂にする、それとも私?」
「……」
「ラフな恰好も可愛いね。そうかその姿でバイトを……メイド喫茶だったら毎日通うけど」
「……」
「ごめん、ごめんなさい私が悪かった。えー、無視するのはいけないと思いまーす」
「……」
「に、西田さん?……スマイル、何円?」
「百億です」
 ぼそっと答えると、水屋先輩は少しよろめいた。
「怒ってる子猫ちゃんが怒ってる……!……もしかしなくても、今日のこと、聞いたんだよね。くそ、あいつらバラしやがって。よくものうのうと私に連絡を」
「先輩」
 小沢&中上抹殺計画を立ててぶつぶつと独白していた水屋先輩が、慌てた様子で笑顔を作った。
「何?」
「どうして、言ってくれなかったんですか」
 私は歩きながら、低い声で聞いた。
「今日のことも、以前のことも、先輩の口から聞いていたら、私、協力しました」
 少しの間、沈黙が流れた。二人分の足音と、遠くを走る車の音が夜の中に響いていた。
「先輩、笑顔で嘘つかないでください」
 決心してそう言ったのに、返事はこなかった。
「なんで何も言わないんですかっ」
「あぁごめん。ちょっと考え事を」
「また誤摩化すためですか」
 私が睨むと、水屋先輩は困ったように微笑み、髪の先をいじった。
 夕方、イリちゃんには恰好つけてしまったけれど、今実際に水屋先輩を前にすると、我慢していた感情がどうしても膨れ上がる。夜は感傷的になるものらしい。
「小学生の頃ね、こういうことがあったんだよ」
 心を落ち着かせようと思った時、唐突にそう言われて、ぽかんとしてしまった。
 水屋先輩は前方からくる会社員らしき通行人が通り過ぎるまで待ったあと、再び口を開いた。
「教室に置かれている棚の上にね、図工の時間に作った生徒達の作品を飾ってあるんだ。数人の子が、棚の側でふざけあって、作品の一つを床に落とし壊してしまった。その作品の持ち主に事情を話して謝ればすむ話かもしれない。ところが、問題が起きてね。ふざけあっていた子達と作品の持ち主は、仲が悪かった。女の子って、大抵数人のグループを作るだろう。私のクラスにも、そういう派閥があった」
 確かにそうかもしれない。仲のいい子達で、自然といくつかのグループが作られる。
「ふざけあっていた時、残念ながら、作品の持ち主は近くにいなかった。もしいれば、故意に壊したのではないとわかっただろう。けれど、持ち主のグループの子は見ていた。それで――その子は、持ち主に嘘を告げた。あの子達が嫌がらせのためにわざと壊したんだよと」
 水屋先輩は一度足を止め、歩道の脇に設置されている自販機に寄って、ジュースを二本買った。そして一つを私に渡してくれた。ミニペットボトルの紅茶だ。
 私は礼を言って、紅茶を一口飲んだ。お金は話が終わったあとに返そう。
 再び歩き出した時、水屋先輩が話を再開させた。
「で、泥沼対立。女の子とはいえ、凄まじい言い争いが始まってね。私はどちらのグループにも入っていなかった。だから事実はどうなんだと問われた時、見たままを持ち主に伝えた。わざとじゃない、偶然落としてしまっただけのようだったと。でもねえ、本当のことを言ったのに、全然事態はおさまらなかった。結局クラス替えの時まで、その子達は和解しなかったんだよ」
「でも、それは水屋先輩のせいじゃないです」
 薄雲の向こうから淡い輝きを投げつける月に、水屋先輩は視線を送った。
「そうだね。けれど、クラスがかわったあと、別の子から彼女達の状況を聞いてしまった。私以外にも真相を見ていた子がいてね、その子は揉め事に巻き込まれるのが嫌で、当時は知らないふりをしていた。でももう時効と思ったのかな、作品を落としたのは偶然だったと証言したらしい。それがきっかけで――嘘をついていた子が、いじめられるようになった」
「えっ」
「結局その子は登校拒否後、転校したよ」
 水屋先輩は、かりっとミニボトルの口部分を小さく噛んだ。
「実はさ、クラス替え前に、その子に相談されたことが一度だけある。本当のことがバレた時皆に嘘つき呼ばわりされてしまう、だから水屋さんから何か言ってもらえないかと。私はどちらのグループにも入っていなかったけれど、広く浅く、皆と仲が良かったからね」
 水屋先輩は手の中のミニボトルを見下ろし、ふっと溜息をついた。
「はっきり言って、私も巻き添えになるのはごめんだったね。自業自得だと思ったし。片方だけに味方するつもりなんてない。事実は事実。嘘をついていたのなら、本当のことを自分の口から伝えて謝るべきだと、突き放した」
 まさかその子が転校するまでいじめられるとは思わなかったから、と硬い声で水屋先輩は言った。
「今でもやっぱりね、自業自得だと思う。嘘は嘘、事実は事実。けれど、その子がいじめられないように口添えすることくらいできたんじゃないかと後悔したよ。なぜ彼女は当時嘘をついたか、理由もあとから知った。グループの対立だけが問題じゃなくてね、ふざけ合って作品を落とした子達に、陰口を叩かれたことがあったためだった。だから偶然落としてしまっただけだと真実を伝えた場合、まるでその子達を庇っているかのように聞こえると思ったんじゃないかな」
 そこで水屋先輩は口を閉ざした。気がつけば信号の前まで歩いてきていたんだ。
 信号は赤だった。車が数台、通り抜けた。
「私はね、誰かに何かを頼まれる時、よくこの事を思い出す。些細な出来事。嘘と事実。自業自得。自分は加害者なのか傍観者なのか。子供の頃の出来事って、幼稚で何もかもがぎこちない分、原点のように思える。水槽の中にあるような自意識で、周囲を睥睨している。潔癖でありながら恐れを知らず、そのくせ脆い。ひどく恥ずかしい行動しか取れない間抜けな自分。塗りつぶしてしまいたいね」
「思い出したんですか、中上先輩や小沢先輩の時にも」
「思い出したね」
 信号が青にかわり、私達は再び歩き出した。
「先輩、私、イリちゃんに怒られたんです。水屋先輩を許せない、そう思うべきって」
 視線を感じたので、私は顔を向けた。
 優しい微笑が目に映る。責めているのに、どうして微笑を作れるんだろう。
「二人の先輩を庇うための嘘、そして私も結局は先生にスケッチブックを提出できました。でも」
「一番西田さんが損な位置に立っている。その理由は――私が後々力一杯、命をかけて慰めるから、というのじゃ駄目?」
 また冗談で誤摩化そうとしてる。
「駄目です」
「駄目か」
「駄目」
「駄目ね」
「何度確かめても駄目です!」
 何だか急に腹が立ってきた。狡い。先輩はやっぱり狡い。今みたいな話を先にされると、私は単純だから流されてしまう。それをわかっていて先輩は言ったに違いない。
「私、やっぱりイリちゃんの意見に賛成です。先輩のこと、許しません」
「どうしても?」
「どうしてもです」
 困ったなあ、と全然困ってなさそうな顔をして水屋先輩は両腕を背側に回し、呟いた。
「何でもかんでも思い通りになんていかないんです。小沢先輩も中上先輩も庇って、私の心まで操作するなんて、そんなのおかしい」
「おかしいかな」
 私はどうして不満をぶつけているんだろう。
 結局は誰も傷つかずにすんだんじゃないだろうか。――もし、私が真実を知らないままであればだ。
「先輩、小沢先輩達が、本当のことを私に教えていなかったら、ずっとずっと隠し通すつもりでしたか」
「そうだね」
 間髪入れずに返答されて、一瞬頭の中が真っ白になる。
「……な、なんですかそれ! 私のこと何だと思っているんですかっ」
 そういえばイリちゃんもこんな台詞を口にしていた、と頭の片隅でなぜか考えた。自分が冷静なのか、激高しているのか、どちらともいえなかった。
「狡い!」
 私は足を止め、水屋先輩にくってかかった。
 こんな時まで、奇麗な微笑を見せているこの人がなんて腹立たしい。
「狡いです、卑怯です!」
「どちらかといえば、そうだね」
「適当に答えないでくださいっ」
 歩こう、と促す先輩の腕を振り払った。
「狡い!」
「うーん」
「う、嘘つきっ」
「嘘つきだよ」
 笑顔で即答され、再び真っ白になった。
「嘘つきで、何が悪いの?」
 な、何ですかその言葉、開き直りですか!
「私が嘘つきで、それが西田さんに何の関係が?」
 耳を疑ってしまう。衝撃のあまり、手に持っていたボトルを落としてしまった。鈍い音を立ててアスファルトに転がるペットボトルを、水屋先輩が身を屈め、平然とした様子で拾う。
 身を起こした先輩に、どこか高慢な笑顔でつらりと見下ろされた。近くにある街灯の明かりに照らされたその顔は、夜の効果もあるのか、どこか艶かしくさえ見えた。
「どうして西田さんがそこまで怒るのかな。騙されて腹が立つ? なんだか騙されたことに憤っているんじゃなくて、私が嘘をつくこと自体が嫌だと聞こえるね。それとも、西田さんだけじゃなくて、小沢も中上も平等に庇ったから?」
「そんなっ」
「平等が嫌なの?」
 私は蒼白になったあと、真っ赤になった。信じられない、信じられない!
「でもねえ、私が嘘つきじゃないと、困るのは西田さんなんだけどな」
「どういうことですか!」
 水屋先輩は高慢な微笑をたたえたまま、二つのペットボトルを弄んだ。
「だって、私は西田さんが好きだもんね」
「脈絡ありませんっ」
「あるよ。私が嘘つきじゃなくなって、他を全部ないがしろにして西田さんだけ庇ったら、重いでしょ」
 重い?
「だから私は嘘つきで平等。西田さんに逃げ道を作っているのに」
 頭が混乱してきた。
「可愛がる反面、今日みたいな場面では他の人間を優先させる」
「……ひ、ひどっ…」
 突き放されたように感じて、咄嗟に言いかけた。
「ひどいって、どうして? 西田さん、自分を一番優先してほしいの。それ、どういう意味か、分かってるのかな」
 私は思わず、一歩後退してしまった。
「大事にされたい? どうしようもなく可愛がってほしい?」
「ふひぃ」
 呻かずにはいられない。
 助けを求めて周囲を見回したけれど、なぜかタイミングよく通行人が通らない。
「特別扱いするには、それなりの関係が必要なんだよ、西田さん。私はお奇麗じゃないから、タダで守るような真似はしない」
 冷たい声音で切り込むように言われ、私は凍り付いた。
 このまま心臓まで凍結するんじゃないかと思って泣きたくなった時、水屋先輩が軽く息を落として苦笑した。
「いいよ、いいよ。全身全霊、愛でてあげますとも。だから私を許しなさい。ちゃんと私はアフターケアも万全でしょう?」
 あぁこの展開、また誤摩化しに入っている。
 私が、後退したからだ。
 答えを出せない。問われた意味の答えを、まだ見ることができない。
 狡いのは私なんだと不意に気づいた。本音を受け取る覚悟ができていないのに、軽々しく責めてしまった。
 と、突然水屋先輩が声を上げて笑い出した。
「なっ」
「いやー、突き放した時の、西田さんの顔ったら!」
 両手のペットボトルをゆらゆら揺らして、先輩は爆笑していた。
「笑うなんて!」
「いたいけな顔だったねぇ。『先輩に嫌われたらどうしよう! 生きていけない!』と考えているのかなと思ったら、人生薔薇色、極楽悦楽色に見えてきたよ」
 私の視界は今、だんだん霞んで白くなってきています。あぁまた先輩の危険なペースに飲み込まれる。
「これはもしかして奪うチャンスなのか。一気に落とせ、やっちまえという神の掲示とか。……西田さん、夜景の奇麗なバーに行こうか。そして上の階に部屋を取ろう」
 真顔で言わないでください。
「ここはひとつ、悪の心で無理矢理オトスべきかと」
 本気で悪のオーラを感じます。
 意識が現実逃避を始めてしまった。
「私は夜景の奇麗な窓辺に立っているわけだ。ふっと振り向いたら子猫ちゃんがいて、着ていたワンピースをすとんと床に落とし、もう離れたくないの、とか、夜景より私を見て、とかなんとか切なげに囁いて」
 先輩、帰ってきてください現実に!
「で、私はこう答えるわけだね。夜景よりも子猫ちゃんの方が美しいと再認識していたところさ……と。いやいやこれではあまりに捻りがなく安易だな。じゃあこう言うか。夜景の光に嫉妬するなら消してしまおうかと。それで私はカーテンを閉め、ほらこれで輝くのは君だけさ、と恥ずかしそうに俯く西田さんを抱き寄せ……、ねえ媚薬入りのカクテルと催淫剤入りのウイスキー、どっち用意してほしい?」
「うぐふ」
 目眩が、寒気が!
 爆弾仕込みの凄まじい言葉に降参しそうになったけれど、私は無理矢理自分を立て直してずかずかと歩いた。
「気を逸らそうとしても駄目ですっ」
「いや、逸らしたいんじゃなくて釘付けにさせたいんだけれどな」
 別の意味で釘付けになってます。
 じゃなくて、途中で話の展開が別の方向に走ってしまったけれど、肝心な思いは先輩に伝わっていない気がした。
 嘘つきとか、狡いとか、そんなことよりもまず言いたかったのは――
「私はっ、先輩が傷ついているんじゃないかと思って、それで!」
 廊下で別れる時、ふっと掻き消えてしまいそうなほど儚げな微笑を浮かべていたから。
 その笑顔の裏で、傷ついているような気がしたんだ。
 もう嘘をついてほしくないのに、先輩は全然真面目に受け答えしてくれない。
「……何だ、西田さん。特別扱いしてほしいんじゃなくて、私のために怒っていたの?」
 隣を歩く水屋先輩が、意外そうに瞬き、ちょっと困惑した表情で唇を尖らせた。
「複雑だなあ。嬉しいような呆れるような。鈍いよー西田さん。ここは普通、私だけを守ってほしかったのに! と怒る場面じゃないか」
 起伏のない道なのに私は転倒しかけてしまい、危うく歩道沿いに並ぶ店の看板へと突撃するところだった。
 先輩の頭の中、どうなっているんですか。
 小沢さんから写真を受け取った時に流した私の涙は、一体何だったのかと虚しくなる。
「西田さんは本当に、予想外に固いよね」
 わざとらしく溜息をつかれてしまった。
「私と相思相愛になれば、大半の怒りと悩みは解消するんだけれど、どう、試してみない」
 お手軽なノリで聞かないでください。
「今なら三ヶ月、無料でご使用できます。豪華特典つき、抽選で新婚旅行が当たるかも」
 何のセールですかそれは。
「……三ヶ月過ぎたらどうなるんですか」
 思わず突っ込み返してしまう自分が悲しい。
「そのまま継続することも可能ですよ。割引します子猫ちゃん」
 にっこり笑われてしまった。
 私はむっとして、早足で歩こうとした。その時腕を引かれ、慌てつつも立ち止まった。しかもなぜか両手に二つのペットボトルを持たされる。
 いきなりぺたっと唇に指を置かれてしまい、目が点になった。
「今、私の存在、滝生好きレベルまで近づいてきてない? きてるよね」
 久能先輩の名前を出されて、私は叫びそうになった。
「今日一日、全然滝生のこと、思い出さなかったでしょ」
 唖然としたら、水屋先輩は侮れない奇麗な笑顔を保ったまま、私の唇に置いた指を自分の唇へと移動させた。
「間接キス、とか言ってみる」
「!」
「あ、ちなみに間接キス、これが初めてじゃないからね」
「!?」
 何か言い返そうとしたら、水屋先輩はするりと私から離れた。
「見送りはここまで。そうだ、その紅茶、残さず飲むように。両方ともね」
「待っ……!」
 大声をぶつけたくなるくらい狡い人だ。
 全身震わせつつ硬直する私に手を振ったあと、水屋先輩は街灯の光が届かない道の奥へと足早に進んでいく。
 一人百面相をして、水屋先輩が歩いていった方を見つめていた時だった。
「西田さん」
 光の届かない濃い夜の中から、静かな声が聞こえた。目を凝らすとぼんやり、水屋先輩の姿が夜の中に見えた。
「ごめんね」
 聞き間違いかといぶかしんでしまうくらい、優しい声が届く。
 私はしばらくの間、その場に立ち尽くした。
 もう声は聞こえなかった。
 変だ私、また胸が苦しくなってる。
 今日は色々なことがあった。寝坊して、雨が降って、全身濡れて、お財布忘れて、スケッチブックが消えた。先輩の嘘を知った。真実を知った。紅茶入りのボトル、二つも受け取ってしまった。お金、返さなきゃ。
 心臓の音がうるさくて、唇がひりひりするほど熱い。
 どうしてだろう?
 
●●●●●(裏側・イリ視点)
 
 何も考えたくない時は、大音量で懐メロを聴く。
 派手すぎない音の方が、大音量で聴く時は耳に優しい気がするからだ。
 私はベッドの上であぐらをかき、瞑想に耽る修行僧のごとくぴしりと背を伸ばして、ヘッドホンから響く懐メロに心を委ねていた。ところがちっとも癒してくれやしない。このままじゃ瞑想どころか迷走だ。
 冴は甘い。甘すぎで、呑気すぎだ。
 水屋先輩など、冴が心配するほどか弱いはずがない。むしろ自分の弱さらしき影を故意にちらつかせて、敵を味方に変えるタイプじゃないか。
 嘘のどこが優しいのだか。未だかつて、冗談でならともかくシリアス場面の中で、ドラマで見るような優しい嘘など食べたことがない。そもそも嘘の内容如何ではなく、嘘をつくという行動にまず、問題があるのではないか。
 私は、あれが苦手だ。詐欺師や探偵を主人公にした映画などのコミカル場面でよく見かける小さな嘘。主人公が罪のない嘘をついて、格好よく誰かから情報を得たり、必要な道具を得たりする。たとえば、実際は違うのに刑事だと偽って、色々と知りたい話を相手から聞き出すとか。実に些細なひと場面だ。主人公視点なら楽しいし、胸躍らせるけれど、ふと考えてしまう。騙された相手は、いつか主人公の嘘に気づくのだろうか。その時、「あぁやられちゃったね、参ったねえ」などと軽く笑い飛ばしてしまえるんだろうか。
 しかし、苦手といいつつも観てしまうあたり、実は好きなのかもしれない。架空の世界の中では、騙された相手が傷つく場面など存在しないし。物語だから笑える。現実はどうだろう。
 春の日差し的日々をこよなく愛する私としては、騙し騙されのスリルはちょっときつすぎる。
 などと、少しばかり捻くれた意見をもってしまうのは、やはり夕方に聞いた冴の台詞が胸の中で脈打っているせいだろう。
 暗い思考だと嘆息した時、突然腰に腕が巻き付き、飛び上がりそうになった。実際、少しだけ身体を揺らしてしまった。
 背中が何かにぶつかる。というか、ついでのようにヘッドホンも奪われ、乱暴に放られた。
「お前、何聴いてるんだよ。選曲が渋すぎるぞ」
「兄さん……心臓に悪いから、いきなり襲撃しないでよ。その前に、無断で部屋に入らないでよ」
「ヘッドホンしてたんだから、ドア叩いても聞こえないだろうが」
「叩いたの?」
「叩くかよ」
「衝動のままに兄さんを蹴散らしたい……」
 背後から腰に巻き付けられたこの腕をどう処分すればいいのか本気で苦悩した。私と違う、大きな骨張った男の人の手だ。少しきついんじゃないかと思うような香水の匂いに、軽く目眩を起こす。妹に対してこの密着加減はアウトじゃないだろうか。
「兄さん」
「兄さんと言うな」
「あにさん」
 わざとくっきりと言ったら、腹の肉を本気で掴まれた。屈辱すぎて何も言えない。
「何だよ?」
 耳元で聞かれて、嫌になった。低く、冷めた、イイ声だ。その眼差しと同じように低温で、気怠げだった。
「もし私が、兄さん嫌いですことよ、と言ったらどうする」
「言えば?」
「嫌いですことよ」
「あっそ」
 なんて期待を裏切らない反応だろうか。見事だ兄さん。
 もし、好きですことよ、と言ったらどうなのか。同じ反応を返されるだろうか。やめよ。想像だけで鳥肌が立ってしまった。
 冴は何かを大きく誤解している。一体どこをどう見れば、この人に好意の要素を見出せるのだろうか。
 やはり、兄は兄なのだ。好意うんぬんの前に、兄だと思う。
 私は安心した。いやーよかった。万が一にも私が兄さんを好きだったらどうしようと思わず悩んでしまったじゃないか。
「俺が嫌いだと言ったらお前、どうするよ」
「ヤッホー!」
 つい即座に歓声を上げてしまった。人間、正直が一番だと思う。
 ふっと兄さんが笑った。実に皮肉な笑い声だった。
「別に、いいけどな」
 兄さん、腕を離せ。
「別にいい」
 もう一度繰り返されたあと、首筋にちりっと痛みが走った。
 食いつかれた、と分かって呼吸が束の間奪われた。
 一体どっちが、嘘つきなんだろう。
 ねえ、兄さん。
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